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風姿花伝
Author:
野上 豊一郎, 西尾 実, 世阿弥
Series:
Publisher:
岩波書店
Release:
Jan 1958
Genre:
Reader Rating:
5.0 (5 votes)
ISBN:
4003300114
Summary:
室町時代、三代足利義満将軍のもとで、従来より親しまれた申楽を「能」として大成した世阿弥が、その父親である観阿弥から伝えられた精神を、秘して子孫へ伝えようと著したものがこの「風姿花伝」である。口述による指南の限界を意識しながらも一貫して説かれる極意は、古来より流れる伝統としての「風」をいかにして体得し、時宜に相応しい「花」として咲かせるか、という比喩に徹頭徹尾凝縮されている。 事物の本質を的確に捉え、自身の心の内に一心同体とすることが「芸」としての物真似の妙であり、把握に失敗すれば「弱さ」を持った「幽玄」や、「荒さ」を持った「力強さ」が顕在化し、本質を見失う。名誉や技巧の追求に走らず無心に稽古に打ち込む姿勢や、表現しようとする心を捨て去った後に浮かぶ純粋に自然な表現に裏付けられてこそ、貴賎老若男女に慕われる芸となり、万人に感動と幸福をもたらし、人生を豊かにすると説く。 古来より伝わる「禅」の思想と、自然との一致を目指す日本人の美的感覚を、その底流に感じさせる世阿弥の芸論は、「能」の世界にとどまらず人生の指針としても有用なものであろう。文章は古文体であるが、重要な概念を示唆する節には適宜補注が加えられており、全体として真意を失わずに読むことができる。変化し続ける個々人の考え方を包括的に俯瞰してこそ、部分の意義を認識できるとする世阿弥の意見に従えば、「花鏡」や「劫来花」など他の著作も是非とも読んでみたいものである。
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